2013年12月

待たせてゴメン   42歳 看護学生

ある日の産科外来での出来事です。男子看護学生さんが実習にきました。男子、と呼ぶには少し年齢が高すぎるようでした。彼には、地元に残してきた4つ年下の彼女がいました。

「高校を卒業して郵便局に勤めました。配達や営業の仕事をしていました。しばらく働いたんですが、煮詰まってしまい、看護師として働きたい!と思うようになりました。元々高校を卒業する頃にも看護師に興味があったのですが、その頃は男子にはハードルが高くて。。。妹も看護師をしているのもあって、
思い切って看護師を目指しました。」

ご家族は?と尋ねると「実は地元に彼女を待たせていまして。」

彼女は4つ年下の38歳。親の介護をしていて、地元を離れる訳に行きません。8年前からのおつきあいですが、これまでうまくタイミングが合わず、結婚できずにいました。

「産婦人科をまわってみたら、高齢妊娠の方多いと思うけど、どう思った?」「はい。高齢妊娠がこんなにリスクが高くて、出産が大変だというのを目の当たりにして、彼女を待たせてしまったこと、本当に申し訳なかったと思っています。それに妊娠しずらいかもしれないし。。。」

大学病院に受診してくるような妊婦さんは、ハイリスク妊娠といって、出産までの経過も難しい人が多いのです。でも産婦人科で働いていると、その前の段階も、とっても気になります。

女性は月経があるうちはいつまでも妊娠できると思っている人が多いようですが、実は35歳を超えると、卵子の数もぐっと減り、ホルモン環境も悪くなり、妊娠しづらい、ということが起こります。

37歳までに、産みたい人数を産み終える。女性はその逆算で産みはじめの年齢、結婚年齢をライフプランに組み込んでいただくことをお勧めします。

もちろんここにいる多くの大人達は知っていることですが、人生は予定通りには行きません。でも、タイムリミットがあるということは知って欲しい。

不妊治療をすれば必ず子どもを得られるという訳ではありません。40歳を超える女性が不妊治療にかかったお金、子どもを持てた人持てなかった人合わせて、産まれたこども一人当たり5000万円とも言われています。もちろん、子どもをもたないという選択も、一つの立派な選択肢です。

「35歳以上は妊娠しづらいと、もっと前に知っていたとしても、本当にタイミングが難しかったから、あのときこうすれば良かった、とかの後悔は無いです。春になったら彼女と結婚に向けて動こうと思っていましたが、この年末にでも結婚に向けて、彼女の両親に挨拶に行ってきます。」

春から看護師として働く彼が、父になる日が待ち遠しいですね。

産婦人科を回ってきた医学生さんで、「クラミジアかかったんですよ」と告白してくれる子がいました。「あなた、中学生、高校生に伝えたいこと、あるんじゃない?と聴くと、「あります」と。
昨日から新しく講演に組み込ませていただきました。


「医学生からの手紙 高校生の皆さんへ」

わたしがみなさんに、一番伝えたいこと、それは「性病は誰でもかかるもの」ということです。くしゃみや咳で風邪がうつることと同じで、性病も簡単にうつるのです。そして、それは他人事では決してなく、自分にも起こり得ることであります。

わたしも中学高校で性教育を受けました。保健体育の授業の一貫として、性病のテストまでありました。梅毒、淋菌、尖圭コンジローマ、クラミジア、トリコモナス、肝炎、HIV、毛じらみ、ヘルペスその他など名前もおぼえさせられました。みなさんと同じように一般的な知識はあったと思っています。でも知識があるだけでは意味がないのです。わたしは身を持って経験しています。

大学3年生、性病についての講義を受けた時、初めて性病というものに向き合いました。3年生になって医学の勉強がどんどんおもしろくなってきた時期でした。おもしろさを感じると、勉強に対して積極的になります。婦人科の領域もだいぶ勉強して知識が増えました。しかし勉強すれば勉強するほど、だんだん怖くなってきたのです。「自分はもしかしたら性病にかかっているのではないか、いや、絶対感染してしまっている」と。そしておもいきって婦人科に行ってみました。結果はクラミジア陽性でした。

それからしばらく、ショックで泣きたい気持ちが離れませんでした。なんであのとき「コンドームをつけて」と言えなかったのか。産んでくれた両親に申し訳ない。経験人数の多いあの子はかかってないのに、なんで自分が。今の彼氏にうつしてしまっていたらどうしよう。パートナーが変わるごとに性病検査すればよかった。性病が原因で将来こどもを産めなくならないか……。クラミジアにかかっているということは、HIV,AIDSにもかかっているんじゃないか。たくさんの思いが頭の中をめぐりました。

治療はきちんとして、再度検査をしたら陰性になっていました。

なぜ知識があった医学生のわたしが、性病にかかってしまったかというと、それは性病が身近なものだという認識が全くなかったからです。医学生どころか医師でも性病感染者がいるとききました。このことからも、いかに知識があっても認識しなくては、予防してなくては意味がない、ということがお分かりいただけるかと思います。みなさんも性病なんて自分には関係ないだろう、自分がかかるなんてありえない、などと思っていませんか。

わたしは性病をかるく考えていたことに、とても後悔しています。絶対にみなさんに同じ思いをしてほしくないと、心から思います。今みなさんに言えることは、性病はうつるものということです。誰でもうつります。他人事ではありません。このことをどうか忘れずに、心にとめておいてください。

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